気候変動とチョウの黒化パターンをグローバルスケールで解析する

鈴木 紀之
(立正大学 環境科学研究所 客員研究員)

2016年10月17日月曜日

身近なテントウムシから

先日、立正大学にて「やさしい科学セミナー」を開催しました。みなさんは、普段の授業で「分かっていること」を学んでいるかと思います。どの科目の教科書にも、人類が今まで明らかにしてきたさまざまな知見についての説明があります。それに対して、実際の研究とは「分かっていないこと」について調べるプロセスだといえます。当たり前ですが、分かっていないからこそ、自分で調べるのです。夏休みの自由研究から卒業研究、そしてプロの研究者による仕事に至るまで、分かっていないことをひとつずつ解明していくことが科学の本質だといえるでしょう。

ところが、「何が分かっていないのか」ということを知るのはなかなか難しいものです。そのためには、まずは「ここまでは分かっている」という科学の到達点を把握した上で、その先にある問題点を認識する必要があります。この点に、授業を聞いて教科書の内容をきちんと理解する価値があるでしょう。



さて今回のセミナーでは、テントウムシを題材にして、現在の科学で解明されていない問題についていくつか紹介しました。ナミテントウという昆虫には、同じ種類にもかかわらず「赤地に黒の斑点があるタイプ」と「黒地に赤の斑点があるタイプ」が存在しています。言い換えると、同じ種類の中にも「多様性」が保たれているといえます。赤地のタイプと黒地のタイプの割合は、地域によって異なっています。北海道など寒い地域では赤地のタイプが多く、逆に九州に向かうにつれて黒地のタイプが増えていきます。

しかし、「なぜ複数のタイプが存在しているのか」「なぜ地域によってタイプの割合が変わるのか」という問題については、十分な説明が与えられていません。ある地域において「ベストな」模様があるとしたら、どの個体もその模様になればいいわけですから、複数の模様が存在していることと矛盾してしまいます。このように、「複数のタイプがある」というパターン自体を把握するのは難しくありませんが、「なぜ」という説明になると、一筋縄ではいかなくなります。生物の模様には「体温の調節」「天敵からの逃避」「求愛のシグナル」という複数の機能があることが知られており、これらの手がかりをうまくつなぎ合わせる必要があると考えられます。

身近な自然といえども、まだまだ分からない問いがたくさん隠れています。こうした疑問についてひとつずつ明らかにすることで、生物多様性の価値を正しく評価していきたいと考えています。